富田和明的台湾太鼓報告 その5 最終回 | 富田和明的太鼓日記『その日の気分打!』

富田和明的太鼓日記『その日の気分打!』

太鼓打ち・富田和明の、太鼓と関係あることないことをその日の気分で綴る、和太鼓ドンドコ日記








 樹齢3200年といわれる神木の周りでしばし休憩した後は、また車で移動したり、歩いたりで、山をゆっくりと下っていった。


 タロコ付近では道路が混雑して歩くことも容易でなくなる。


 最後は儀式的に、ゴールの手前一キロほどを歩く。


 


 


 今日は朝から澄み渡る青空ばかりを眺めてきたのに、ここにきて雲行きがかなり怪しくなっていた。下界に下りたとたん、今にも雨が降りそうな空が待ちかまえていた。


 


 太魯閣国立公園管理所近くにくると太鼓の音が聞こえた。


 広場に作られた特設ステージの上で、優劇団の少年太鼓隊が先にリハーサルをしていたからだ。太鼓の音を耳にするだけで元気になる、って不思議。


 


 


 


 管理所前で解散式。


「歩く活動はここまで、皆様お疲れさまでした。でも忘れないでくださいね。最後に我らが優劇団のコンサートがありますからね。しっかり見て楽しんで下さい!」


 主催者のあいさつに参加者から歓声が上がる。


 


 時間は夕方4時半。 僕はフラフラ、お腹が減って・・・。5時には弁当が配られると聞いたが内容に期待は出来ないので、先に自分でレストランに行って鶏カレー風煮込みライスを駆け付け二杯食べた。


 公演は6時開始なので、劇団のメンバー・スタッフは休む間もなく慌てて公演準備に取りかかっている。そうしている間にも雨が降り出し、本格的な雨になる。


 


 


 


 暑かったし汗もかいていたので気持ちの良い雨だけれど、太鼓にはよくない。ステージに屋根もついていない。


 日本では野外コンサートが開かれる時、今ではほとんどが屋根付きになっている。雨が降ってもステージには雨が出来るだけかからないように配慮されるからだ。でもここにはその屋根がなかった。


 公演を見るためのお客さんは、次々と列を成して下から上がってきていた。


 


 


 そうすると、舞台の上では、荷物梱包用の特大サランラップ?を持ってきてすべての太鼓にグルグル巻きだした。


 雨が降っても公演は決行されるようだ。


 夕立かと思われたが、その降っている時間が長い。日本でなら、この雨の中太鼓は叩かないだろう。プロの太鼓集団ならどうだろう・・・。


 雨は止みそうにないけれど、お客さんは集まっている。ここで中止にするのか、それでもやってしまうのか・・・。


 僕の心配は無用だった。この日、雨が降りしきる中、定時に公演が始まる。


 


 


 


 お客さんはカッパを着たり傘をさしたり、そのまま濡れていたり、気にしていない。


 観覧無料のイベントだけれど、僕が感心したのは、客席誘導のスタッフなどいないし特設トイレもない。人だけがやたらいるのに、会場に混乱がないことだ。


 お客さん同士が「そこの人、傘を閉じて!」「子供は座って!」「そこに登るな!」「キチンと並んで!」などと声をかけ、注意しているからだ。またその指示をみんなよく聞く。


 5,000人以上はいるのではないだろうか・・・。主催者は何万人とか言ってたけれど。


 主催者の司会が出てくるだけでも、客席から熱い拍手!そして代表あいさつがあって優劇団の太鼓演奏が始まる。


 


 


 


 最初の二曲は、これが初舞台になるという劇団少年部の太鼓。劇団のメンバーもサポートに入っていた。


 日本でも各地でのお祭りでよく叩かれる創作太鼓と様は同じ。


 僕は何も感じないが、お客さんはこれだけでもう大喜びなのだ。待ちに待った太鼓!というワクワク感が僕にも伝わる。


 何しろこの雨が降りしきっている中で、これだけの人たちが座って見ていることだけとっても、お客さんの熱さは分かる。


 


 子供たちとのジョイント前座演奏が終わってからが、正式なコンサート。


 中盤で大太鼓(四尺ほどの大きさ・胴はくりぬきではなく張り合わせ)が舞台の中央に一台、ゆっくりと移動された。


 


 


 よ~し、いよいよだな~ 


 チラシや看板の中心に大太鼓の写真が使われているので、やはり期待していた。どんな演奏なのか・・・・・。


 上半身裸になった二人の男が、太鼓の表面と裏面に向かい、叩き出す。


 大太鼓もサランラップが巻かれたまま。まだ雨も降っている。そこに振り下ろされるバチ。聞こえる音は、生音ではなくマイクを使っている。


 


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 ・・・・?


 


 


 ずっと静かな演奏だった。


 テンポが上がったり追い込んだり音が大きくなったりするものの、僕にとっては静かな印象でしかない。当然、僕の気持ちは熱くならない。


 日本では当たり前の、力を振り絞って叩くスタイルではなかった。


 演奏途中に声を掛けたり、拍手をするようなタイミングもない。


 


 あの黙々と青い空の下歩いてきたその道程を思わせる、禅僧のような落ち着きだった。


 


 


 


 一曲一曲、彼らの演奏を見聞きするたび、彼らの太鼓スタイルを少しずつ体に理解させている、そんな気がした。


 熱くはない。癒し系とでもいえばいいのか・・・。


 


 


 僕がいいと思ったのは、太鼓に向かって戦うような武術を見せたもの、そして長棒を持って太鼓を叩いた曲だ。台湾まで来て、今まで見たことがないものに僕は飢えていた。


 


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 彼らは武術、踊り、演技が出来る。


 それをもっと全面に出した公演なら世界に通用するだろう。


 男性は全員がムキムキではない無駄のない見事な体だ。


 その彼らが少林寺など拳法を取り入れた静と動のダイナミックな演技で太鼓を叩けば・・・・。すごい太鼓チームに変身すると思う。その兆しは今でも充分に見えた。


 


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 公演中盤から、やっと雨足は弱まり、そして止んだ。


 野外ステージの上に屋根がないということは、後ろが丸見え。


 彼らが屋根を作りたくなかった意味が分かった。


 


 


 舞台のバックは三千メートル級の山々がそびえる渓谷なのだ。


 雨が降っているときには、真っ黒い雲が覆っていた。その雲が流れ、白い雲が山にかかり、そしてその雲も動いた。


 太陽が沈んだ余韻を空に残して、空を、山を、雲を染めてゆく。


 ゆっくりと夜は更ける。


 彼らの演奏をこの空が見守っていた。


 


 そして最後の曲では星が瞬いている。


 


 


 


 アンコールは唄だった。たぶん先住民族・タイヤル族のだろうか。


 女性の美しく、そして明るい歌声が響く。


 その歌声に、太鼓の音が加わってくる。


 こういう曲作りも日本のグループが行っているものと変わらない。


 日本でも世界の音楽から色々なスタイルを学び、自分たち流に表現してきた。音楽は世界共通、つながっている。


 


 


 優劇団は、台湾の大地を歩く活動を通して自然と、自分と、対話することを学び、それを太鼓を叩くことにも活かしているようだ。


 すでに台湾の特色も出てきている。これから更なるオリジナリティーが生まれることだろう。


 


 


 


 彼らの一番の意義は、彼らのその行動存在が、台湾、そして中国の旧来の太鼓世界を変えてしまうのではないかと思える事にある。


 僕は鼓童時代の1983年から何度も公演で台湾を訪れた。他にも日本のたくさんの太鼓チームが台湾を訪れていることだろう。そしてその蒔いてきた文化の種が台湾で今開こうとしている。そう見ても驕りにはならないと思う。


 台湾には日本の文化を素直に感じ受け入れらる土壌がある。中国大陸には残念ながら、それは薄かった。


 でも、この台湾の太鼓劇団の彼らが叩く太鼓は、大陸でも素直に受け入れるのではないかと思うのだ。同胞の文化になっている。


 中華民族でもここまで演れる!


 


 そう一度確信したら変化は速いのではないだろうか?


 これまでの中国の太鼓は、胴が薄い木材の張り合わせで音の響きが少ない。そしてバチが細くて小さいものばかり。振りが重視され踊るようなものが多い。


 太いバチで、音のよく響く太鼓を力強く叩けば、これはこれで「こんなに気持ちのいいことはない」と体で知れば、キット中国大陸でも、太鼓文化が革命的に変化してゆく、そう思えるのだ。


 


 


 台湾の優劇団「優人神鼓」はその扉を開けるグループに間違いない。


 


 


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おわり


 


 


 


 


 


 















 


 


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