写真家・太田順一さん~徳島で聞こえてきた懐かしい声 | 富田和明的太鼓日記『その日の気分打!』

富田和明的太鼓日記『その日の気分打!』

太鼓打ち・富田和明の、太鼓と関係あることないことをその日の気分で綴る、和太鼓ドンドコ日記

日曜日、鳴門海峡大橋を渡って徳島市内をトラックで走っていた時、ラジオから懐かしい方の名前が聞こえました。
アナウンサーの方が紹介したのは、写真家・太田順一さん。


僕は車の運転中、ほとんどラジオを聞いています。
関東ではTBS、中部ではCBC、関西ではABC‥‥。たぶん今日もABCだったと思う。
それは仏教関係の朝のラジオ番組『ちょっといいお話』でした。
そこに出演されたのが太田順一さん。
日常会話では声が少し上ずった感じの愛嬌ある関西弁ですが、この時は初めて聞く落ち着いた渋い語り口でした。


太田さんとは、鼓童時代に知り合いました。
長い取材期間を経て『佐渡の鼓童』という写真集も出していますが、他にも『女たちの猪飼野』、『大阪ウチナンチュ』、『ハンセン病療養所隔離の90年』やら、太田さんの目線はいつも弱者の立場にあります。


太田さんの写真は、こちらがいつ撮られたのかまったく気が付かないくらい自然で、しかも豊饒な語りが被写体から生々しく聞こえてくるような一枚の絵です。


誰に対しても腰が低くて謙虚な太田さんには、人も街もみんな気持ちを開いていまうのだと思います。
だからこそ取材が終わった後も、何だかお付き合いが続いているのです。


僕が鼓童を離れて中国に留学していた時にも、北京にまで出来立ての『佐渡の鼓童』が届けられました。
日本に帰って来てまだ「これからどうしようか」悩んでいた時にも、奈良のご自宅に泊めて頂いて、たくさんのお話を伺いました。
「人間て、やろうと決めたら、案外やっていけると思いますよ」
太田さんの飄々とした物言いに、まだ何の計画もなかった自分ですが励まされたように思います。
僕が始めてソロ公演を行った、渋谷ジァンジァン『富田和明参上 太鼓物語』にも応援に来て下さいました。


この太田さんの声が、偶然付けたラジオから聞こえている。
それも東京や大阪ではなく、徳島でこの話を聞いている。
懐かしいのか嬉しいのか‥‥心が躍りました。




朝のまだ早い時間でしたが、少し迷った後、車を停めて太田さんに電話をしてみました。
「アラララララ、久しぶりですね。お元気でしたか?」
「お陰さまで、何とか僕もやっていっています」
「それは、よかったですね」
十数年ぶりの会話でしたが、前となんら変わりのない、人懐こい優しい声が僕を包んでくれました。