冬打2013が終わりました。
これが終わると、もう一年が終わったような気になってしまいます。
自主公演を打つようになって、19年。
15本(十五夜)も続いた『富田和明 兎小舎 なにみてたたく』シリーズは別として、夏打冬打シリーズも長くなってきた。
通常の打組主催公演は、私が共演者と話をして主な内容を決める。
それでも、大きい舞台で行う特別公演の時には、やはり客席から見てもらう演出が必要になるので、劇場に入ってから最後の仕上げをいつも、平沼仁一氏にお願いして来ました。
トーク齊富公演も、同じく平沼氏に最後の仕上げをお願いして来ました。
しかし、
今回の冬打2013は違います。
共演の露木一博さんとは、2011年以来の二度目の共演ですが、
今回は、なかなかアイデアが浮かばない。
露木さんと二人で何度か会って話をしていても、まったく進まず、
酒だけが進んだ。
せっかく役者でもある露木さんとやるので、太鼓芝居にしたい!
という気持があるものの、考えても考えても、出て来なかった。
これはもう、神頼みならぬ、平沼頼みだ!
自主公演はほとんどお金にならずギャラが発生しないので、まったくもって頼み辛いのですが、ここはもう腐れ縁ですからスガッタ訳でございます。
今回共演の露木さんは、彼が主宰する東京打撃団のメンバーでもありますし‥‥‥ね。
そして、
今年の夏の終わり、と言ってもまだまだ暑い日でした。
でも冷房が効き過ぎてとっても寒い、世田谷の某喫茶店。
私と露木、この二人でどういう話が作れるのか?
平沼に聞いてみた。すると、
こんな話はどうだ、
あんな話はどうだ、
と勝手に色々と話す平沼。
そのなかで、私の頭にもピンとひっかかる言葉が出て来た。
「トミダ、父と子ってのはどうだ?」
「えっ‥‥‥それはどんな話だ?」
「例えば ‥‥‥‥」
でもその場所があまりにも寒くなってきたので、場所を寒くない居酒屋(夏なのにおかしなことですが)に移動し、ちょうど露木も空いていたので急遽呼び(やはり実際の二人が目の前にいた方が、イメージも沸くはず、で)、父と子でどんな話になるのか、を具体的に話し合っていた。
そこで平沼の口からでたのが、
「伝説の太鼓打ち、父をたずねて三千打ち!」
ってのは、どうだ!
と彼が居酒屋で叫んだ!
「そ、それはどういう話だ?」
と身を乗り出す私。
聞いているのかいないのか、ただ横で酒を飲んでいる露木。
「それは、こういう話なんだ」
と、平沼のおしゃべりがより饒舌になった。
それを聞きながら、それはいい、それはダメだ、ここはこうしよう、と手を打ったり、机を叩いたりしながら、大笑いしたり唸ったりしている二人。
ただ横で笑いながら酒を飲んでいる露木。
そこでひとしきり話が出たところで、
「もう、このくらいで何とかなりそうか?」と平沼。
「ありがとう、たぶん出来ると思う」と私。
夢中で話を聞いて考えていたので、トイレに行くのを忘れていて、店を出てしばらく歩いたところで急に尿意が襲ってきた私。
「じゃ、また」
と慌ただしく駅前で駆け出し、その夜、彼と別れた。
それから、しばらくして、何とかあの話をまとめなければいけないと焦ってきた私。
露木が11月にある彼の芝居の稽古が始まる前に、ともかく一度でも稽古をしておかなくてはいけないと思っていたからだ。
そして何日かこもって、やっと一本の台本を書いた。
平沼にもその台本をメールで送ったけれど、彼からはウンともスンとも返事はなく、時は流れ、11月の終わり。
露木の劇団芝居が終わり、やっと本格的に冬打の稽古が始まった。
もうぎりぎりだ。
そして、本番、4日前。
平沼と照明の篠木さんに、これまで稽古して作ってきたものを初めて見てもらう。
そこで、平沼から、またアイデア、アドバイスをもらい、翌日の稽古で露木と二人で台本を書き直し修正し、本番に向かう。
公演当日。
ティアラこうとう小ホールに搬入仕込みし、本番前のリハーサルで、突然次々と露木のセリフが沸いてきた平沼。
どんどんしゃべり、それを必死で憶えようとする露木。見守る私。
でも露木のセリフが変わると、僕のきっかけも変わるので、僕もなにがどうなっているのか、解らなくなってきた。
でも解っているのは、確実に前よりも面白くなっている、ということ。
但し、それがキチンとした間(ま)で語られ、次に繋げられれば、
という条件が付く。
かくして初日の幕が開いた。
精一杯ではあったものの、頭が混乱しているので、次になにをやるのかさえ、何度も思い出せず‥‥‥。
体力的にもふらふらで、一日目が終わる。
二日目、少しは落ち着いた。
芝居以外の部分でも、少々余裕ができて考えられた。
但し、口の中の乾きは半端ない。
口の中がザラザラで、口が動かないのだ。
大事なところで言う「およねさん」も、うにゃむにゃになる。
でも、終わった。
舞台は、時間が限られている。
始まれば、終わる。
今回もたくさんの方に支えられての公演でした。
お客さまにも、来て頂けないと、もう私もほんとうに困ってしまいますから、本当に本当に、お越し頂きましたお客様には、感謝しております。
露木と二人、楽しく遊ばせて頂きました。
そして最後にもう一度、平沼仁一、
ありがとう。
彼の最初の言葉がなければ、今回の舞台はまったくなにも出来なかった。
無の状態から、物が生まれる不思議と感動。
これを経験すると‥‥‥。
今後とも、みなみな様、よろしくお付き合い、
お願い申し上げます。
今から14年前(1999年)の夏に僕が初めて小説のようなものを書きましたが、
これも平沼と飲んでいた時に彼の口からでた話に刺激され書いたものです。
お時間ありましたら、こちらもどうぞ。
『全日本太鼓みたま御祭』
富田和明的2020年日記、毎日配信中!まもなく第100号